地震による被害について
増加する屋内での地震被害と長周期地震動
建築基準法改正以後の建物が増えた近年では、地震動による被害の多くは建物内で発生しています。家具類の転倒・落下による被害が多いということは、対策によって防げるのだとも言えます。特に、耐震・免震技術の向上とともに増えた高層ビル内では地上に比べ長時間大きく揺さぶられることになるため、より強固な対策が必要です。あなたの身近な建物で、地震に備えた被害防止策と安全な避難経路への対策がとられているか、チェックしてみましょう。
大地震への警戒と被害予想
日本において予想される大地震
巨大なプレート同士がぶつかり合う境界上に位置し、しかも域内に2,000もの活断層を抱える日本列島は、幾度となく巨大地震に見舞われてきました。今なお、東海や東南海、南海などでは高い地震発生率が示されています。地震はいつか必ずやってくる前提で備え、地震時の被害を最小限にとどめることが企業の責務として求められているのです。図は、今後30年以内(基準日:2020年1月1日)に、震度6弱以上の揺れに見舞われる確率を示した図で、色が赤いほど発生する確率が高いことを表します(文部科学省地震調査研究推進本部)。官公庁から発表されているこうした情報も参考にしながら、被害レベルを想定します。
仙台市における被害状況
大地震被害の多くを占める転倒・落下・移動
一般的に、短周期地震動の場合は低層階の建物の揺れが大きく、長周期地震動の場合は高層階の建物が大きく揺れる傾向にあります。地震の被害は、地震の特性、地盤、建物の構造、震源地からの距離など、あらゆる条件の組み合わせによって変わり、それに伴い、家具に及ぼす影響も変わってきます。仙台市における被害状況の調査によると、背の高い家具は転倒・落下の被害が多く、コピー機は移動被害が圧倒的に多かったことが分かります。
東京都内のオフィスにおける被害状況
長周期地震動による中高層オフィスビルで移動が発生
2011年3月の東日本大震災においては震源から遠く離れた地域にも多くの地震被害が発生しましたが、最大震度が5強程度であった東京都内においても、中高層のオフィスビルの約20%で家具類の転倒・落下・移動が発生したとの調査結果がありました。特に高層階では家具類が60cm以上移動する被害も多く発生し、また高層階になるほど転倒・落下・移動している割合が多いことから、長周期地震動による被害があったと考えられます。今後は従来の地震対策の中心であった「転倒」「落下」防止対策に加え、特に中高層階では「移動」防止策が重要になっています。
長周期地震動とオフィスでの被害
高層ビルと共振して、震度以上に長時間大きく揺れる
地震動にはさまざまな周期成分の震動が混在しますが、その中で、周期の長い成分を多く含んだものを長周期地震動といいます。長周期地震動は、周期が短い地震動に比べエネルギーは小さいものの、減衰せず比較的遠方まで伝わる特性があります。また、長周期地震動は、固有周期が長い高層ビルや構造物と共振するため、建物の変形量が大きくなり、揺れが収束するまでかなりの時間を要します。2003年の十勝沖地震では、震源地から約250km離れた苫小牧市の石油タンクがスロッシング(液面揺動)により損傷し、火災が発生しました。また、2004年の新潟県中越地震では、震度3だった都内高層ビルのエレベータ6機がケーブル切断事故を起こしました。このように長周期地震動は、震源地が遠いからといって油断は禁物です。
キャスター支持事務機がオフィス内を疾走する!?
長周期地震動により高層階オフィスで想定されるおもな被害内容は、書架・ロッカーなどの転倒や、事務機(コピー機、FAX、シュレッダーなど)の移動などが考えられます。書架などは床や壁に固定することができますが、事務機はキャスター支持が多く、何の対策もしないと長周期の揺れで数mも移動してしまいます。加速してきた重量物と壁の間に挟まれた場合の衝撃は、その重量の数倍にもなるため、生命・財産への被害防止に移動防止対策は極めて重要です。東日本大震災の際に東京都内の高層階オフィス内で発生したキャスター付きコピー機の著しい移動は、地震の横方向加速度が非常に大きかったことを意味しています。